定着・離職2026-09-07監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

介護職の離職率は本当に高いのか — 公的統計で読む定着の実態【北関東版】

この記事の要点

「介護ってどうせすぐ辞める人が多いんでしょう?」——茨城県内のある特養で採用を担当している知人に、先日そう聞かれました。僕は少し考えてから、「それ、もう十数年前の数字のイメージだと思いますよ」と答えました。

結論から言うと、公的統計を見る限り、介護職の離職率は今も「突出して高い」とは言えない水準まで下がってきています。ただし平均値の裏には大きなばらつきがあり、数字の読み方を間違えると判断を誤ります。この記事では、公的統計の実際の推移と、施設ごとに離職率が動く理由、そして北関東で定着している施設に共通する特徴を、キャリア相談の現場で見聞きした具体例とあわせて整理します。

0. 「介護は辞める人が多い」という思い込みを一度手放す

僕はポテンシャライトで介護職のキャリア相談を担当していますが、面談の冒頭で「介護は離職率が高いって聞くので不安です」という言葉を、これまで何度も聞いてきました。この不安自体は自然なものだと思います。実際、2000年代の介護保険制度が広がり始めた時期には、介護現場の人手不足と高い離職率がセットで報道されることが多かった記憶があります。ただ、その印象を今の数字のまま持ち続けるのは、少しもったいないと僕は考えています。まずは公的統計を並べて、実態を確認するところから始めましょう。

1. 公的統計で見る介護職の離職率 — 全産業平均との比較

公益財団法人介護労働安定センターが毎年実施している「介護労働実態調査」では、訪問介護員・介護職員の離職率が長期で追えます。この調査によれば、離職率は2007年度に21%程度あったものが、直近の調査年度では14%前後まで低下してきています。一方、厚生労働省「雇用動向調査」が示す全産業平均の離職率は、ここ数年おおむね15%前後で推移しており、医療,福祉分野に限っても近い水準です。数字だけを並べると、介護職の離職率は全産業平均とほぼ並ぶところまで来ている、というのが体感値としても近い実態です。

業種・時期離職率(目安)
介護職員(介護労働安定センター調査・2007年度当時)21%程度
介護職員(同調査・直近年度)14%前後
医療,福祉分野平均(雇用動向調査・直近年)14%台
全産業平均(雇用動向調査・直近年)15%前後

ここで大事なのは「今は低い」という一言でまとめないことです。次の章で、この数字自体が持つワナについて触れておきます。

2. 離職率という数字のワナ — 母集団とカウント方法を疑う

離職率は「その年度に退職した人数」を「在籍する職員数」で割って出す指標ですが、この分母と分子の定義次第で数値は大きく揺れます。常勤換算した人数で割るのか、パート・非常勤を含めた実人数で割るのか。新卒や中途で入って1年未満の早期離職を含めるのか。同じ施設でも、集計方法を変えるだけで離職率の見え方は数ポイント変わります。

さらに影響が大きいのが施設規模です。僕の体感値ですが、定員20名前後の小規模施設では、たった1人が退職しただけで離職率が10ポイント近く跳ね上がることがあります。逆に100名規模の特養では、同じ1人の退職でも1〜2ポイントの動きにしかなりません。求人票や施設のホームページに「離職率◯%」と書かれていても、それが何名中何名の話なのかを確認しないと、実態を見誤ります。

3. 茨城・栃木・群馬、有効求人倍率が示す「採用の難しさ」と定着の関係

茨城労働局・栃木労働局・群馬労働局が公表している職業別の有効求人倍率でも、介護関連職種は全職種平均を上回る水準が続いています。これは「辞める人が多いから求人が絶えない」という単純な話ではなく、高齢化に伴う需要増によって新規の求人数自体が増え続けているという要因も大きいと僕は見ています。つまり有効求人倍率の高さは、離職率の高さと必ずしもイコールではありません。人手不足の背景には「辞める人の数」だけでなく「必要な人の数が増え続けている」という需要側の事情が重なっているのです。この点を切り分けずに「求人が多い=みんな辞めている」と読んでしまうと、施設選びの判断を誤りやすくなります。

4. 定着している施設に共通する3つの特徴

これまで北関東の複数の施設を見学・ヒアリングしてきた中で、定着率が安定している施設には共通点があると感じています。以前担当した栃木県内のある老健施設では、新人に対して先輩職員が1対1でつく期間を明確に区切っており、その期間中は夜勤に入れないルールを徹底していました。話を聞くと、この制度を導入してから早期離職の相談自体が目に見えて減った、とのことでした。この一例だけで断定はできませんが、僕が見てきた中で「定着している」と感じる施設には、次の3条件が揃っていることが多いです。

この3条件は、人間力やスキルの話ではなく「仕組み」の話です。仕組みとして整っているかどうかは、求人票の文言だけでは判断がつきません。

5. よくある失敗と対処 — 数字だけで施設を選んで後悔したケース

ここで、僕が相談を受けた中で実際にあった失敗の話をひとつ紹介します。群馬県内の有料老人ホームに転職を決めた30代の方から、入職半年後に「話が違う」と相談を受けたことがありました。求人票には「離職率5%」と明記されており、本人はそれを大きな決め手にしていました。ところが後から施設の職員数を確認すると、開設から2年目の小規模施設で、常勤職員はまだ20名に満たない状態でした。実際にはその半年の間だけで3名が退職しており、年換算すればとても5%では収まらない状況だったのです。求人票の「5%」という数字自体は、募集時点の古いデータをそのまま転記していただけだったと後から分かりました。

この失敗から言える対処法はシンプルです。求人票に離職率の数字が書いてあったら、その場で鵜呑みにせず「その数字は何名中何名の話ですか」「集計はいつ時点のものですか」と聞いてみることです。あわせて、施設の開設年数や常勤職員の総数も確認すると、数字の信頼度がぐっと上がります。僕の体感値ですが、開設から3年未満の施設は職員の入れ替わりがまだ落ち着いていないことが多く、離職率の数字自体が参考値になりにくい時期だと考えておいたほうが安全です。

6. ケース比較 — 離職率の数字だけでは見えなかった2つの施設

実際に僕が見学に同行した2つの施設を比較すると、数字の見え方の危うさがよく分かります。ひとつは茨城県内の定員100名規模の特別養護老人ホーム(以下、施設A)で、公表されている離職率は12%程度でした。もうひとつは栃木県内の定員18名のグループホーム(以下、施設B)で、こちらの離職率は25%と、数字だけ見ると施設Bのほうが圧倒的に「危ない」ように映ります。

ところが施設Bで実際に退職していたのはこの1年で職員1名のみでした。定員18名という小規模ゆえに、母数となる常勤職員数がもともと6〜7名程度しかおらず、1人辞めただけで25%近い数字になってしまっていたのです。しかも退職理由は本人の家庭都合による転居で、施設側の問題とは言い切れないものでした。一方の施設Aは、母数が大きい分、数字自体は安定して低く出やすい環境ではあるものの、実際に働く職員何名かにヒアリングすると「夜勤の負担感は施設Bより重い」という声も聞かれました。つまり、離職率という一枚の数字だけを並べて優劣をつけるのは危険で、母数の規模・退職理由・現場の声をセットで見ないと、実態を見誤ってしまうということです。

7. 求人票・面接で「定着率」を確認する具体的な質問

では実際に、面接や施設見学の場でどう確認すればよいのでしょうか。僕がキャリア相談の中でおすすめしているのは、次の3つの質問をそのまま聞いてみることです。「直近1年で退職された方は何名くらいいましたか」「主な退職理由はどのようなものでしたか」「夜勤専従の方の平均的な勤続年数はどれくらいですか」。この3つに対して、担当者が具体的な数字や理由をすぐに答えられるかどうかで、その施設が自施設の離職状況をきちんと把握・管理できているかが見えてきます。逆に、質問に対して曖昧な返答しか返ってこない場合は、離職率という数字自体を管理する文化がまだ薄い可能性がある、と僕は見ています。可能であれば、見学の際に配属予定のフロアの職員と少し立ち話をさせてもらうのも有効です。求人票の数字よりも、現場の職員の表情や言葉のほうが、定着の実態を雄弁に語ってくれることが多いと僕は感じています。

8. (結論) 数字より「なぜ辞めないか」を見に行こう

介護職の離職率は、公的統計を見る限り、もはや全産業平均と大きく変わらない水準まで下がってきています。ただし、その平均値の裏には施設ごとの大きなばらつきがあり、数字の分母・分子の定義や施設規模によって見え方は簡単に変わります。大事なのは「離職率◯%」という一枚の数字を鵜呑みにすることではなく、その数字の背景にある教育体制・シフトの透明性・相談窓口の有無を、自分の目と質問で確かめに行くことだと僕は考えています。皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 介護職は本当に離職率が高いのですか?

結論としては、公的統計を見る限り「今も突出して高い」とは言えません。介護労働安定センター『介護労働実態調査』では、介護職員の離職率は2007年度に21%程度あったものが直近では14%前後まで低下し、厚生労働省『雇用動向調査』が示す全産業平均(15%前後)とほぼ並んでいます。ただし施設ごとの差は大きく、平均値だけで安心材料にするのは早計です。

Q. 離職率の数字はどこまで信用していいのですか?

母集団とカウント方法を必ず確認してください。常勤換算かパート含みか、新卒1年未満の離職を含むかで数値は大きく変わります。特に定員20名前後の小規模施設では、1人が辞めただけで離職率が10ポイント近く動くこともあり、単月・単年の数字だけで施設の良し悪しを判断するのは危険です。

Q. 定着している施設を面接前に見分ける方法はありますか?

求人票だけでは難しいので、面接や見学の場で直接質問するのが確実です。『直近1年の退職者は何名でしたか』『主な退職理由は』『夜勤専従者の平均勤続年数は』の3つを聞くと、教育体制・シフトの透明性・相談窓口の有無という定着施設に共通する3条件が見えてきます。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

この記事を、eBookで持ち帰る。 本記事をスライド形式のPDF(16:9・全14ページ)に再構成しました。お名前とメールのご登録だけで、その場でダウンロードできます。
無料でPDFを受け取る →

自分の現在地を、まず知る。

「介護クエスト北関東 適性診断」(無料)で、いま狙える職域タイプが分かります。個別に相談したい方はキャリア面談へ。

適性診断をやってみる → キャリア面談をする →

あわせて読む